第3回 終活の第一歩に「遺影写真」撮影を提案
INTERVIEW
2020.06.104人に1人。超高齢者社会の終活
日本人の4人に1人は高齢者となった。65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3,190万人で、総人口に占める割合も25.1%と過去最高となった(平成26年度内閣府調査)。
高齢者が自分の死を意識した準備をする「終活」は、多くの方が考えるべき常識になりつつある。生前から自らの葬式プランを立てることも、終活の1つ。核家族化や少子化に伴い、葬式準備に携わる親族が減って、葬式準備の負担は重くなりつつある残された家族が困らないための準備として、葬儀準備は重要になっている。
24時間以内に業者に提出。間に合わせのピンボケ写真ばかりに
葬式準備のなかでも、遺影写真選びは盲点の1つ。通夜に間に合わせるためには、死亡から24時間以内に写真を葬儀会社に渡す必要がある。
しかし実際に、生前に遺影を準備している人はわずか1割ほど(平成24年経済産業省調べ)。急いで選んだものが使用される事例がほとんどで、集合写真や運転免許証を引き伸ばしたピンボケの遺影写真ばかりになってしまう。
家族の死をきっかけに、遺影専門カメラマンへ
生前の遺影準備を手伝ってくれるのが、遺影写真専門で撮影している「素顔館」(東京都中野区、能津喜代房館長)。7年前のオープン以来、訪れる人が絶えない。
遺影を撮影し始めたきっかけは、恩人である義父の死だった。大学を卒業後、大手化粧品メーカーの宣伝部へ入社。わずか2年後、フリーの広告専門カメラマンとして独立。生活に困窮する中、経済的に支えてくれたのは妻の父親だった。結婚や出産の際も嫌な顔せず援助をしてくれた。そんな岳父が亡くなった直後の葬式では、1枚もスナップ写真を撮っていなかったため、写真選びに苦労したという。普段の姿を写したスナップ写真を撮っていなかったことを、写真家として後悔した。
せめて自身の両親くらいはと思い、里帰りの際に撮影した写真に写る両親の笑顔は、今にもしゃべり出しそうなほど自然なものだった。話しかけるといつでも応えてくれているような気持ちになった。以来、「遺影写真家」になることを心に決める。還暦を機に広告業界から引退し、素顔館を開いた。
切ったシャッターと同じ数のドラマ
夫に付き添われた末期がんの妻は「やりたいことを準備できるだけ幸せ」と、悲壮感を欠片も見せなかった。
撮影後しばらくして新聞の死亡欄で顧客の名前を見つけ、葬式に参列したこともある。
家族に内緒で来所した方の遺影を額に入れて郵送したところ、届く直前に本人が突然死していた。最後の様子を家族に詳しく伝えることになった。
派手で多くの人の目に触れる広告写真と異なり、遺影写真は地味で見る人も少ない。しかし新製品の発売とともに記憶から消される広告写真と違い、家族の中で永遠に大切に受け継がれ、見続けられる。写真家としてこれほど幸せな仕事はないという。
普段のままのその人らしさを残す
「終活ブーム」ともいわれるが、実情は未だしの感がある。ある調査によると、エンディングノートの認知率は63.5%もある一方、実際に記入したことがあるのは2%に満たない。遺影写真の準備にまでは、頭が回らなくて当然だろう。
人生最後の写真を撮る覚悟で来所する依頼者は、表情が硬い。一番輝く表情を引き出すためには、細やかなフォローが欠かせない。
完全予約制で、一人ひとりの時間を確保。撮影時間は1時間半と他の写真館よりも長く設定している。すぐには撮影に入らず、依頼者とのコミュニケーションの時間を設ける工夫もしている。趣味や生きがい、これまでの人生などについて語り合い、30分はじっくりとお客様と向き合う。その人らしさを引き出すためだ。ありのままの姿の写真を残すことで、葬式では家族も死を受け止めることができるのだという。
また撮りに来たいと思ってもらう
毎年記念に撮影に来る常連もいる。「最後の1枚」ではなく、「今日の元気な姿」を撮影するつもりでシャッターを切る。大切な家族へのプレゼントにもなる。
「生命保険は普通に契約するのに、遺影写真はどうして撮らないのでしょうか」
死と直結するイメージの遺影写真だが、もっと日常的で垣根の低いものにしたい。
70歳以上の来館者が多いが、年齢に関係なく元気なうちから撮っておくべきなのだという。
「また遺影写真を撮りに来たいと思ってもらうことが、長生きをするモチベーションになるのでは」
遺影写真・肖像写真 素顔館
館長 能津 喜代房
聞き手
東京弁護士法律事務所代表
弁護士・税理士 長谷川 裕雅
株式会社STAYCATION
http://www.staycation.jp/
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